2004
彼の父親は口数の少ない人だった
声を上げるのは怒った時だけだった
その怒鳴り声は少し変で 感情任せでヒステリーな
例えるなら遠い雷の音ではなく
真上で鳴るあの音
雲の中でプラズマが弾けるような音に近かった
彼は父親が苦手だった
同様に雷の音も怖がった
寡黙な父親は
職場から帰ると寝るまでテレビを観て過ごしていた
その間は話しかけてもほとんど聞こえておらず
返事が無いため
自然と話しかける事もなくなっていった
彼の家庭は父親が数年前に残した数百万の借金を除いては
貧しくも裕福でもない普通の暮らしをしていた
父親は友人が少なかった
というより彼の認識では存在しないに等しかった
父の人生を想像すると
職場と家庭とテレビの往復 いや 職場とテレビの往復のような人生だった
そんな父の元に
時々電話をかけてくる人がいた
その人は父以外が電話に出るとアニメのキャラクターのマネで話しかけてくるので
彼にはいつもの人という認識があった
ドラえもんの人から電話がかかってきたと親に伝えていた
デジマさんという名前のその人を父はお客さんと呼んでいた
彼の父親は製薬会社で働いている
と昔母親から教えられていた
給料は30万円という事も
お客さん呼ばれる人は他にも数人いた
その中でもモリタさんという60代の女性が
彼にとっては重要だった
モリタさんは会う度に物を買ってくれた
ゲーム機とソフト ラジコン
彼の家庭では1年に1度
誕生日の日に五千円までのプレゼントを選べたが
そんな物がちっぽけに感じるほどの衝撃を彼に与えた
5千円では買えないゲーム機本体をモリタさんに買ってもらい
残りのソフトを誕生日に買ってもらうという流れが彼の中で出来上がっていた
モリタさんに会うのは年に1、2回だったが
彼には十分すぎる機会だった
退屈な勉強会もモリタさんが来るという理由で前向きに参加する事ができた
''と
彼の記述は以上であり
それまでの記憶である''